価値提案(顧客にとっての価値)

価値提案とは英語のバリュー・プロポジション(Value Proposition)の日本語訳の言葉です。日本の経営学では、これまで、ほとんど取り上げられることはありませんでしたが、アメリカの経営においては、会社のサービスの差別化要因を語る上で、なくてはならない概念です。近い概念として、差別化要因、競争優位の源泉、強みという言葉がありますが、「価値提案」は、顧客にとって価値のあるポイントという意味合い強い言葉です。特に、会社のブランド力がない、ベンチャー企業は、純粋な製品・サービスの魅力のみで勝負をします。そのため、顧客にとって、真に価値があるかどうかが、売れるかどうかの決め手になるため、ユニークな価値提案があるかどうかが重要になるのです。
近年、人に勧めたい店、タベログで上位を高得点をとっているお店などの共通項をみていると、「コスパのよい店」という表現を使用するケースが増えています。コスパは、コスト・パフォーマンスの略ですが、コストに対してパフォーマンスが著しく良いことを指します。レストランにおけるパフォーマンスとは、味の事を指すことが一般的でしょう。一般的に、価格と味は比例します。以下の表ですと、右肩上がりの直線上に沿って、分散します。

人気店を上記の表にプロットしていくと、時として、常識を覆す例外が現れます。例えば、昨今人気の「俺のフレンチ」という元ブック・オフの社長が立ち上げたレストランがあります。「俺のフレンチ」は、客単価4000円だけど、高級フレンチが味わえると評判になっている店です。開業から予約が全く取れないとのことですが、これは、顧客が”値打ちがある”と認めた証拠です。
「安いのにおいしい」というのは、立派な価値提案です。安いだけ、おいしいだけでは、顧客は価値を見出さないのです。安くておいしい点に消費者は、惹かれ購入するのです。

価値提案を表現する方法

事業計画書において、価値提案を表現する方法として、ブルー・オーシャン戦略において提案された戦略マップを利用することがよいでしょう。さきほどの俺のフレンチを例にあげると以下のように表現することができます。

作成方法としては、次の手順にしたがうと効率的に作成することができます。

  • 競合を数社リストし、セールスポイントとしている点を10項目程度リスト化します
  • そのうえで、以下の点を考慮し、ライバル企業が取り組んでいないフロンティア市場を発見します
1)減らす:業界標準と比べて思いきり減らすべき要素は何か?
2)取り除く:業界の常識として製品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきものは何か?
3)付け加える:業界でこれまで提供されていない、今後付け加えるべき要素は何か?
4)増やす:業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か?

競合との差別化ポイント(組織としての強み)

競合との差別化ポイントを説明するためには、競争優位の源泉を明確にする必要があります。ここでは、競争優位の結果としての差別化ポイントではなく、なぜ、競争優位を生み出すことができているのかを掘り下げていく必要があります。
あらためて、ポーター先生のフレームワークを引用することになりますが、同先生が提案したバリューチェーンという概念があります。
バリューチェーンの概念を簡単に説明すると、「会社は、顧客に価値を届ける機能の組み合わせであるため、機能ごとの競争力を見れば、会社の製品・サービスに差別化をもたらしている源泉が分かる」というか考え方です。
この機能は、一般的に、研究開発、調達、製造、物流、販売、管理といった形で細分化されます。これを基本の型として、産業ごとにアレンジすることが重要です。一つの型が必ずしも全ての業種にあてはまるわけではないため、柔軟に変えていけばよいです。
組織としての強みは、自社のバリューチェーンのみを見ていても見えてきません。差別化の源泉は、競合と機能ごとをの競争力を比較することで初めて発見できます。バリューチェーン分析を以下のようなフォーマットにあてはめておこなうと良いでしょう。事業計画書に以下のフレームワークをそのまま、挿入することで、読み手も、競合との相違点を一望でき、正しく深い理解を促進することができるはずです。

ポジショニング戦略

マーケティング戦略は、以下の3つのステップを考慮して、構築されます。

  • セグメンテーション(segmentation)・・・顧客を分類
  • ターゲティング(Targeting)・・・・狙う顧客を選定
  • ポジショニング(Positioning)・・・顧客から見た場合の自社の位置づけを設定

本セクションでは、ポジショニングを記載します。ポジショニングは、ターゲット顧客に対して、自社製品についてユニークな差別化イメージを印象付ける活動です。つまり、顧客に自社製品のユニークな価値を認めてもらうことで、競合製品に対して優位に立つことを目的にしています。
ポジショニングを検討する際は、顧客の視点に立つことが重要です。具体的には、価値提案の分析により、抽出されたターゲット顧客が重視するKBF(Key Buying Factor:購買決定要因)を元に、ポジションニングを決定します。ポジショニングを行うにあたっては、パーセプションマップと呼ばれるフレームワークを使うことが有効といわれています。KBFのうち、重要な2つの要因を抽出し、二次元のマップを描き、競合製品といかに差別化できるかを考える方法です。

ポジショニングを行うにあたり、以下の4つのチェックポイントを考慮することが重要といわれています。

  1. ポジショニングのターゲットサイズが十分か
  2. 売り手の考えるポジショニングが、顧客に正確に伝わるか
  3. 売り手の考えるポジショニングに、顧客が支持するか
  4. 企業理念と製品のポジショニングに整合性があるか

また、ポジションニングの成否は、売上や収益性に大きな影響を与えるため、マーケティング・プロセスの中でも重要なステップです。意図するポジショニングを顧客に伝え、共感が得られるように、狙ったターゲット顧客に刺さるマーケティング・コミュニケーション(製品戦略、価格戦略、チャネル戦略、プロモーション戦略)が重要になります。

価格戦略

マーケティング戦略における価格の問題は、企業の売上高や収益性に直接影響を与えるという点で、マーケティング・ミックスの中でも重要な論点です。価格水準により、自社の製品・サービスの売り行きが変化したり、競合製品の価格が見直されることも頻繁にあります。このような意味からも、企業のマーケティング戦略に沿った明確な目的の下に、価格に関する意思決定が行われることが重要になります。
価格決定にあたっては、以下の要因が複雑に関係します。

  • 内部要因:製品の機能、企業イメージ、利益目標、プロモーション戦略、チャネル戦略
  • 外部要因:顧客の需要、競合状態、取引先への依存度、景気動向、法的規制

事業計画書においては、基本的なプライシングのポリシーを明確に記載します。価格の設定方法としては、以下の4つの方法が主要な方法です。

  1. コストプラス:原価に対して一定のマージンを付加し、価格設定を行う方法
  2. 競合ベンチマーク:競合と比較し、自社のポジショニングに応じた値付けを行う方法
  3. 売れる価格設定:リサーチを通じて、最も売れる価格帯を見つけ、値付けを行う方法
  4. 需要連動価格:「時間別」「曜日別」価格など市場セグメントごとに価格を変動させる方法

販売促進の戦略

プロモーションの本質は、企業と顧客との間でのインタラクティブなコミュニケーションです。プロモーションの実行にあたっては、以下の手順に従い、コミュニケーションプランを作成することが重要です。

  1. プロモーションする対象の明確化
  2. 目標の決定
  3. メッセージの作成
  4. プロモーション・チャネルの選択
  5. 予算の設定
  6. プロモーション・ミックスの決定

事業計画書では、「誰に」「どのようなチャネルで」「何を」「どのように」伝えていくかということを簡潔に述べる必要があります。複数のチャネルを使い、顧客とミュニケーションを行うのが通常ですので、以下のプロモーション・チャネルを参考に、最適なプロモーション・ミックスを設定し、事業計画書において包括的に記載することが重要です。

インターネットマーケティング戦略

昨今、BtoCのビジネスに限らず、BtoBビジネスの受注もウェブサイトを通じてかなりの数が流入してくるといわれています。。人と人のつながりが全てであった営業手法も、近年大きく変わりつつあり、ネットの情報を精査して、最適な製品・サービスを手に入れようとする消費者が増えているです。そのような消費者のニーズに応えるツールも増え、購買のきっかけがインターネットという状況がますます増大しているような時代になってきました。これまで、マーケティングツールとしてインターネットを活用することは、話題先行の側面も大きかったわけですが、最近では、ネットマーケティングで受注を拡大した成功事例も多く聞かれます。企業環境が厳しくなるなか、インターネットマーケティング戦略が重要な生き残り策の1つとなり、注目されています。事業計画書においても、マーケティングの鍵となる戦略ですので、重要ポイントを抑えつつ、ネット戦略の概要について記載することが重要となります。
事業計画書では、主として、インターネットを利用したプロモーションを記載します。インターネットのプロモーション手法は、新サービスの登場により、様々な手段がありますので、以下のインターネットプロモーション・チャネルを参考に、最適なプロモーション・ミックスを設定し、事業計画書において包括的に記載することが重要です。

  • SEO/SEM戦略:Googleなどのサーチエンジンの検索結果のページを上位表示できるように自社Webサイトを工夫する方法
  • ブログ:ブログコンテンツを利用したPR手法。コンテンツマーケティングの時代となり、SEO上もブログの重要性が高まりつつある。
  • SNS:Facebook, Twitter, Google+を利用した双方向の情報伝達手段
  • Adwords:Googleの広告サービスの活用方法
  • 動画:Youtubeなどを利用し、会社や製品をアピールする動画を気軽に視聴してもらう方法
  • メールマガジン:登録者に対し、メールを通じ、定期的にニュースを配信し、自社のサービスの最新情報を伝える手法

チャネル戦略

チャネルとは、製品・サービスが提供する側から受けてまで流れる仕組み、つまり、流通経路のことを指します。チェネル戦略とは、この流通経路を自社に最適な形にデザインする戦略をいいます。事業計画書においては、1)顧客との直接のコンタクト先(チャネル)と2)調達・流通経路に分けて記載します。

チャネル

顧客とのタッチポイントをできるだけ多く増やすことが重要になりますので、製品・サービスを利用する顧客にとり、利便性の高く、気軽にコンタクトができる方法を考慮する必要があります。同時に、自社にとっての利益への貢献度合いに応じたチャネルミックスを構築していくことが重要です。顧客との接点になるチャネルは、以下が挙げられます。

  • 直販チャネル:自社店舗による販売によるサービス
  • 代理店チャネル:代理店の人員によるサービス
  • 客先訪問チャネル:自社営業職員が直接訪問するサービス
  • 展示会・セミナー:提示会等を開き、集客する方法
  • 紹介チャネル:人的なつながりで紹介を受ける方法
  • コールセンター:電話による営業
  • Webサイト:インターネットの情報による集客方法

調達・流通経路に

製品・サービスは、様々な経路をとって、最終ユーザーに提供されます。物流が業界内でどのような構造になっているか、事業計画書において説明しましょう。

  • 小売業者であれば、地域の配送業者・卸売業者との関係はなくてはならないものでしょうか。通常、家電、衣服、書籍、自動車部品などは、卸売業者を介して、小売店に納入されます。
  • 大企業の工場へ直接納入する事業でしょうか?
  • 技術者が現場に赴いて、納入設置をする事業でしょうか?

小売業者であれば、消費者は小売店舗でモノを買います。近年はオンラインショップでの売上であれば、オンラインショップの倉庫から消費者へ配送業者を通じ直納されたり、メーカー直送として、工場から直接消費者のもとに届けられることもあります。
製品ごとに、様々な物流パターンを戦略的に選択することができます。例を挙げると、百科事典や化粧品など何十年もさかのぼると、これらは、訪問販売で販売され、これとは別に通信販売やテレビショッピングを通じて売られることもありました。近年は、多くの製品がオンラインショッピングに移行しましたが、戦略的にベストな物流パターンを考え、それを事業計画書で説明する必要があるのです。
製品の多くは長期契約に基づき、事業者から事業者へ直接配送されることも多くあります。自動車の組み立て業者と部品業者は、長期契約に基づき安定した部材供給を実現しています。業種によっては、販売員、代理店などを活用し、製品の製造元からユーザーを効率的につなぐ体制をつくっています。
技術進化によってもこの物流パターンに大きな変化がもたらされます。例えば、インターネットの登場により、ソフトウエアは、家電量販店がメインのチャネルでしたが、今では、アマゾンなどのサイトから直接ダウンロードして購入することができます。これは、音楽、本、映画についても同様です。
この物流パターンというのは、サービス系の会社にとってはそれほど重要ではないかもしれません。例えば、マーケティング会社、士業、建築家などを思い浮かべてみても、実際にモノを配送する業種ではないため、物流パターンについては詳細な記述は不要といえます。
ただ、一部のサービス系の会社にとっては、この物流パターンが重要となるケースがあります。例えば、電話会社、ケーブル会社、インターネットプロバイダーを考えてみると、それらの事業者にとってのサービスを提供する物流は、通信設備などのインフラということになります。また、別の例として、出版会社をサービス業と考えた場合、コンテンツを本にまとめ、書店に配送するまでの流れは、物流が重要なプロセスになります。

マイルストーン

これまでのステップにおいて、事業計画書の根幹をなす市場分析、戦略について検討してきました。しかし、戦略や分析は、あくまで仮説の領域を出ず、これをいかに、アクションにつなげていくかが重要になります。抽象的な戦略をブレイークダウンして、具体的に「何を」「誰が」「いつまでに」「どのように」やればよいかがわかる一覧表を作成する必要があります。
事業計画書には、限られたスペースしかありませんが、主要な業務ごとに重要なアクションを漏れなくリスト化することが重要です。例えば、以下のような雛形を活用することができます。

このような一覧表を作れば、実際に事業を開始したときに、やるべきことが明確になりますし、計画段階では見えていなかったリスクや課題が顕在化することもあります。実行可能なレベルまで掘り下げてみると、頭の中で描いていたプランが非現実であると気づくことも多々あります。
マイルストーン表を作成するにあたっては、それぞれの作業の期日を入れることが重要です。具体的な日付をいれることで、理想一辺倒の事業計画が現実性のある実行可能プランに変えることができます。また、後日、進捗状況を確認することができますので、計画と実績の乖離を検証し、次年度、より現実的なプランを作成するための土台となります。