市場分析での記載事項

市場分析のセクションでは、マーケティングに関する基本的な考え方を説明します。事業計画書には、項目としては、”自社が狙う顧客”に対して、次の分析を盛り込むことになります。

・市場のセグメンテーション
・ターゲットセグメントの戦略
>市場規模の推計
>市場のニーズ分析
>市場のトレンド分析
>市場の成長率

マーケティングの基本的なステップ

マーケティングは、通常、以下の3つのステップにしたがって行います。事業計画書においても、この3つのステップを明示的に記載することにより、読み手に伝わりやすくなります。なぜなら、事業計画書の読み手の多くは、経営やマーケティングに関する知見を有していることから、教科書どおりの説明のほうがぐっと頭に入って来やすいからです。

1) セグメンテーション(segmentation)・・・顧客を分類
2) ターゲティング(Targeting)・・・・狙う顧客を選定
3) ポジショニング(Positioning)・・・顧客から見た場合の自社の位置づけを設定

市場のセグメンテーション

マーケティングのスタートは、ある切り口で顧客をグループ分けするところからはじめます。これをマーケティング用語で、セグメンテーションといいます。全ての人に対し、それぞれのニーズに応えるような製品・サービスを一律に提供することは、非効率ですし、現実性の乏しい施策です。そのため、ニーズの似た顧客を小グループ化して、そのセグメントに向けた製品・サービスを提供することで、営業施策の効率性を高めることができるのです。
セグメントの分け方には様々な方法があります。個人顧客と法人顧客のグループ化の切り口について、それぞれ次のような分類方法が考えられます。

個人顧客(BtoC)

・性別
・年齢
・世代
・年収
・職業
・家族構成
・地域
・趣味・嗜好

法人顧客(BtoB)

・業種別
・規模別(資本金/売上高/時価総額基準)
・タイプ別
・地域別
・国内事業/海外事業

中小企業・ベンチャー企業が、いきなり巨大なマーケットを狙いにいくことは、人員や広告費などのリソースの関係上、現実性が乏しいため、一般に、いわゆるニッチ戦略が採用されます。ニッチ戦略では、特殊なニーズのあり、付加価値のあるサービスにプレミアムを払ってくれる層をターゲットとします。そのため、セグメンテーションにおいても、ニッチ戦略を念頭において、自社がリーチでき、特殊なニーズを顕在化できるレベルまで細分化するとよいでしょう。グループ分けの軸を使う場合も、まずは、東京に住む20代を「○○」と「xx」でセグメント分けをするという、かなり細かい対応が必要になります。

市場規模を推計する

どの市場を狙うかを決断するにあたっては、その市場に参入すると、どれくらい売上を見込むことができるかという情報を入手する必要があります。このような情報は、市場を細分化して分析すればするほど、推計が難しくなる傾向があります。工夫を凝らしセグメンテーションを行ったのあれば、市場規模の推計にあたっても、相当頭を捻り、自身でカスタマイズして、計算を行う必要があります。
市場規模の測定にあたっては、1) 既にあるビジネスに参入するケース2) 新規ビジネスを開拓するケースに分けて考える必要があります。1)の場合は、既に競合が事業を行っており、実際に売上を計上しているため、各社の売上高実績を集計することによって、市場規模を集計することができます。一般に、同業者で、「○○協会」という団体を作り、定期的に統計データを集計する業界団体が多いです。一方、2)のケースは、潜在的なニーズの予測であるため、仮定に仮定を掛け合わせて算出するようなものです。したがって、不確実性が高いことから、事業計画書においては、投資家が十分納得できるだけの仮定に対する根拠を示す必要があります。近年ですと、「ビッグデータの市場規模は○億円」と「クラウド市場は、○兆円」といわれていますが、新サービスの黎明期は、概して期待が誇張される傾向にあるため注意が必要です。
市場規模の算定方法は大きく2つあります。1つは、「調査結果を利用する方法」。2つ目は、「フェルミ推定により、自身で推計する方法」です。
調査結果を利用する方法は、ネットサーチが基本です。情報ソースとしては、ネット上に掲載されている以下のような情報が考えられますので、まずは、公的機関の統計データを無料もしくは有料で入手できないかを確認するとよいでしょう。

1)公的機関の統計情報を利用する場合
2)業界団体の統計データ
3)民間のシンクタンク、リサーチファームの情報
4)マーケティングリサーチ会社によるアンケート結果による予測
5)インターネット上のニュース
6)雑誌・新聞などの情報
7)業界特集の雑誌、書籍

上記の方法で期待する市場規模のデータが入手できない場合は、自身で推計する必要があります。いわゆるコンサルタントが得意とするフェルミ推定です。フェルミ推定は、戦略コンサルや外資系企業の入社試験で使われため、「頭が切れる人でないとできないテクニック」と思われがちです。しかし、それは、面接中、何も情報がない状況で、かつ、時間的なプレッシャーを受けながら、質問を受けるため、難易度があがるのであって、ネット検索と組み合わせれば、それほど難しくありません。例えば、フェルミ推定は、「東京都の男性の数」とか「東京都の幼稚園の数」を事前知識なしで予測するというものですが、そのような基礎データは、Google検索で答えが5秒でわかります。ですので、フェルミ推定を実践するにあたっては、十分な根拠のある基礎情報を前提として、式の組み立て、インプットするデータの信頼性、仮説の検証が重要なポイントになります。

顧客セグメントを分析してターゲットを決める

セグメントの細分化と市場規模の推計が終わったら、次は、各セグメントの顧客を分析し、どのセグメントが魅力的で、当社がターゲットとするべきかを記載します。分析にあたっては、以下のフォーマットを使うと、複数のセグメントの特性が一望できますし、投資家にとっても理解しやすい構成にすることができます。

市場のニーズ分析

消費者ニーズの現状に関する定性的な分析を行うことで、消費者がどのような点に不満を抱え、何を望んでいるかについて概要を記載します。顧客が、どのような点を重要視して、製品・サービスを選んでいるかという点についても併せて記載するとよいです。

市場のトレンド分析

マーケティング戦略上、消費者ニーズの変化が重要なポイントであれば、市場のトレンドに関する定性的な分析を行います。特に、ファッション業界であれば、シーズンごとに流行商品がかわるため、セグメンテーション・ターゲティング戦略に大きな影響を及ぼすからです。

市場の成長率

ターゲットとする市場の将来性についての定性的な分析を記載します。具体的に何%成長すると記載することは難しいかもしれませんが、市場の成長性に関連する指標を記載することで、将来性についての信頼に足る分析を行うことができます。どの業界においても、先行指標と呼ばれるものがありますので、直近の統計データを入手し、定性分析を補完する定量情報を記載すると説得力が増します。