人員計画の重要性

経営における重大な要素として、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」があります。特に中小企業では、各「ヒト」が持つ能力の掛け算によって、その会社の経営能力が決まることから、ヒトという資源の持つ意味は、とりわけ重みを増してきており、他社との大きな差別化要因となっています。
しかし、だからといって何でも積極的に採用すればいいというものではありません。それは、多くのベンチャー企業が拡大期に、積極採用を行い、人件費の負担に耐え切れず、倒産に至った例からも、教訓として一般に認知されていると思います。日本においては、一旦採用した従業員は、簡単に解雇できない事実を鑑みると、「ヒト」への投資は経営上、何よりも重みのある意思決定事項であると考えられます。
「ヒト」への投資意思決定にあたってのポイントは、将来を予測しながら、「経営計画」を達成していくために必要となる「人材戦略」を明確にした上で、その必要数や人材像を明らかにすることです。そして、必要に応じて社内の人材活用、従業員の定着活動や能力開発、業務の効率化といった課題を併行して検討しながら、採用方針や採用計画を立案していくことです。
こうした作業を踏まないまま採用活動を行っていくと、採用数が十分ではなかったり、逆に、余剰感が出てしまったりするなど、そのツケはボディブローのように後々まで影響を及ぼします。特に近年は、経営を取り巻く環境が大きく変化しており、こうした要員管理をどう進めていくかが大きなテーマとなっています。また、その軌道修正も迅速に行わないと、企業の存続に関わるケースも出てきています。今日、人員計画はまさに経営上の最重要課題となってきたと言えるのではないでしょうか

人員計画の作成方法

人員計画とは、事業に必要な人員の採用や配置、退職に関する計画のことであり、人件費の算定の基礎となる計画です。人員計画は、事業規模の拡大・縮小に応じ、常に最適な人員構成になるように、適宜補てん、削減しなければなりません。それは経営計画に連動して策定されるものであり、単年度計画であれば当該年度の事業運営上の人材ニーズ、長期計画であれば自社の長期的な人材ニーズを充足させるために策定・実施されます。
その「手法」については、マクロ的手法とミクロ的手法があります。ミクロ的手法は「積み上げ方式」とも呼ばれ、簡単に言えば、部門、職種、階層別に必要人員を報告させ、それを合計したものです。一方、マクロ的手法とは、「労働分配率」「損益分岐点」などから適正人件費を算出し、必要な要員数を求めるものである。
通常事業計画書においては、積み上げ方式を採用します。小規模の企業やベンチャー企業を前提とすると、次のようなシンプルな方法では、各役員・従業員の名前と役職を記載し、各自の月次給料額を算定していきます。

正社員の人件費のからくり

正社員で、25万円の人を雇う場合、果たして年間の人件費はいくらになるのでしょうか。25万円×12ヶ月と計算し、一人当たり300万円でしょうか。まずは、賞与、通勤費、残業代などの時間外手当がありますので、その分を上乗せが必要になります。また、多く方はご存知ですが、正社員を雇うと、社会保険料(労災、雇用、健康保険、厚生年金等)が企業側の負担として追加で圧し掛かってきます。事業計画書を作成し、人件費を見積もる場合は、社会保険料等も上乗せして見積もることが重要になります。

月給25万円の人(25歳男性)を雇ったケース(平成25年9月現在)
・労災保険料(会社全額負担)                                  25万円×0.3%=750円
・雇用保険料(会社負担分)                                25万円×0.85%=1,750円
・健康保険料(会社負担分) 25万円×4.985%(東京都の率)=10,225円
・厚生年金保険料(会社負担分)                  25万円×8.383%=19,630円
・児童手当拠出金(会社全額負担)                       25万円×0.15%=325円
介護保険(会社負担分)                                        25万円x5.76%=1,440円
保険料合計: 32,680円
※40歳以上の場合、介護保険料もかかります。

他の福利厚生費や交通費等も考えると、25万円の月給の人を雇い入れる場合は、一月当たり30万前後の人件費を想定しておく必要があります。つまり、従業員に月給として提示する額の20%から30%増の金額になります。月給25万円の従業員は、会社への負担という意味では、年間約360万円かかる計算になりますので、300万円を想定して、事業計画を策定してしまうと、実際と予測で60万円も差がでてくる計算になります。そのため、総額人件費管理を適正に行うと共に、保険料の仕組みを十分に理解した上で、採用計画と人件費予算を組んでいくことが重要になります。事業計画書においても、人件費の見積りは、どんぶり勘定ではなく、ポイントを抑えた正確な見積りが欠かせません。