(1)概念を整理しよう

「ビジョナリー・カンパニー」という書籍が世に出て以降、様々な経営者がビジョンやミッションの重要性をとき、まず、「戦略を作る前にビジョン・ミッションを決めましょう」といったことがよく言われます。それらは、とても重要なことですが、多くの方が「そもそもビジョンとミッションとゴールって何が違うの?」という根本的な疑問を抱くのではないでしょうか?アメリカの経営学の概念を輸入して、無理やりカタカナ英語で表記しているため、日本人にとってはどうもわかり難いものになっているのです。本篇では、以下、ビジョン、ミッションという言葉をできるだけかみ砕いて解説します。

(2)重要概念をシンプルに構造化

企業経営を考える上で基本となる重要なコンセプトが6つあります。ミッション、ビジョン、ゴール、目標、戦略、戦術です。それぞれ、簡単に定義づけると以下のようになります。

「ミッション」:「なぜ会社は存在するのか?」「なぜこの事業を行うのか?」という存在価値や行動原則を語るもの。日本語では、経営理念、企業理念、スローガン、社是と同義語として使われます。
「ビジョン」:「将来、会社はどのような姿になりたいか?」という最終到着地点を語るもの
「ゴール」:「3-5年後までに、どのようなことを成し遂げたいか?」というビジョンを達成するための通過点の目印
「目標」:「具体的なアクションの結果、どのようなことを成し遂げたいのか?」という短期的な目印
「戦略」:「会社は中長期で何をするのか?」という具体的な内容を語るもの
「戦術」:「具体的にはどのようにするのか?」という詳細な手段を語るもの

(3)重要概念をシンプルに構造化してみると

上記のとおり、できるだけ簡単な言葉を使い、定義を記しましたが、今ひとつピンとこないのではないでしょうか?理解を苦しめているのは、実務では、それぞれの概念を混同して使っている傾向にあるからだと思います。誤解を恐れずに、できるだけ概念を簡略化・構造化すると、以下のように表現することができます。

大きな括りとして、「ミッション」、「戦略」、「戦術」を経営上の行動指針として、それぞれ上位、中位、下位の概念としてより具体化されていくと考えると整理しやすくなります。これとは別グループ(上記表の右側)の概念として「ビジョン」「ゴール」、「目標」があります。これらは、各行動指針を実施した結果として達成したいことをあらわす概念です。「ビジョン」が上位の抽象概念で、「ゴール」「目標」に移ると、より具体的になります。
これらの6つの企業経営に欠かせない言葉は、2つのグループと3つの階層で整理できますが、「3つの階層」の概念がよく混同されて使用されています。この3つの概念の違いをより正確に定義すると、 「ミッション」と「ビジョン」がWhy(なぜ)、「戦略」と「ゴール」がWhat、「戦略」と「目標」がHowを表す概念となります。

(4)山登りにたとえてみると

企業経営は、よく山登りに例えられます。つまり、登る山を決め、登頂を成功させる戦略を練り、それを達成するための具体的な施策を決めるプロセスは、まさに企業経営と類似するということです。そして、山登りを成功させるために、登山計画書を作成するのと同様に、企業経営を成功させるために、事業計画書が存在するのです。ここでは、富士山登頂を例にして、以下、企業経営の6つの概念を整理しています。

ミッション:自然を楽しむ山登りをする
Vision: 富士山にてご来光をみる
戦略: 吉田口ルートを通り、8号目で一泊し、翌朝、頂上を目指す
ゴール:1日目に8合目まで登り切り、早朝、山小屋を出発する
戦術: 登山靴などの装備を完璧する。ガイドを雇う。
目標: 7合目の難所を超える

(5)ワンピースで考えてみると

山登りはありふれた例ですので、もう少し砕けたネタで、6つの概念を例示してみましょう。ワンピースという漫画は、リーダーシップ論やモチベーション論的に見て参考になるという意見が多いのですが、ミッション、ビジョンという観点でも参考になる話が溢れています。前述した企業経営における6つのキーワードに関して、ワンピースで考えてみると以下のようになるのではないでしょうか。

ミッション:ワクワクするような冒険をする。夢・信念・仲間のためなら死をも恐れない
Vision: 「海賊王に俺はなる」、「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を手に入れる」
戦略:優秀(面白そう)な仲間を集め、新世界をめざし、前進あるのみ(計画性なし)
ゴール:「偉大なる航路」後半の海である新世界にいる四皇を倒す
戦術:パンクハザード編では、トラファルガー・ローと海賊同盟を結ぶ
目標:パンクハザード編では、学者シーザーを捕らえ、子供たちを救出。