標準的な事業計画書には、製品・サ-ビスについての詳細な記述を含めます。このパートでは、図、表、写真等を使い、読み手に、製品・サービスの概要とビジネスモデルをわかりやすく伝えることが重要となります。製品の場合は、具体的な部品構成についても説明を加え、競合との差別化ポイントを明確することが鍵となります。

詳細な製品・サービスの説明

「一言で表現すると当社の製品・サービスは何か?」という点を意識し、主要な製品・サービスについての説明を開始するとよいでしょう。起業家の方が陥りがちな罠としてよくあるのが、自社の製品・サービスの説明を複雑にしすぎて、伝えたい内容がぼやけてしまうということです。説明に時間を要するサービスは、通常、事業計画書の読み手に理解してもらえませんし、筋がよくないものと思われます。いかなる複雑なサービスであっても、シンプルに表現することを心がけるべきです。
例えば、Facebookであれば、「友達同士が近況を報告しあえる交流サイト。ユーザーに対する広告を収入源とする」と表現できますし、Twitterであれば「130文字以内で独り言をつぶやく交流サイト。ユーザーに対する広告を収入源とする」となるでしょう。

「製品・サービスの概要」の記載にあたっては、以下の点を考慮して記載すると、投資家に訴求しやすい内容になります。

  • 例えば、価格、見込客を記載し、顧客が自社の製品・サービスの「どのようなところを気に入って購入するのか」という点について記述します。この点を明確にすることで、それぞれの製品がどのような顧客ニーズを満たすことになるのかを投資家等に説明することができます。
  •  すべての製品について、詳細な説明は必要ありませんが、少なくとも、主要な製品ラインついては、包括的な記述が必要となります。
  •  ビジネスモデルとセットで説明すると、読み手が理解しやすくなります。

また、「製品・サービスの特徴」という項目を設け、「当社製品・サービスのセールスポイント」を記載すると、大まかな差別化ポイントを伝えることができます。「製品・サービスの特徴」の記載にあたっては、次の点が重要となります。

  •  顧客のニーズや顧客のメリットに焦点をあて製品・サービスの特徴を説明することが重要です。
  •  ウェブサイトで「当社が選ばれる○つの理由」として、会社の説明をすることがありますが、このように、重要な点に絞り特徴を記載することで、事業計画書の読み手に対して、当社の強みを印象付けることができます。
  •  製品・サービスの特徴を列挙すると、新しいサービスのアイディアなど思わぬひらめきに出くわすかもしれません。これも事業計画書の作成プロセスの副次的なメリットといえるでしょう。
  •  顧客をタイプ分けし、それぞれのタイプ顧客のニーズに着目して記述するとよいでしょう。そうすると、これまで対象とみていなかった新たな顧客ニーズや顧客セグメントに気付くかもしれません。

ビジネスモデルの説明

十年前の事業計画書においては、ビジネスモデルへの言及はほとんど行われていませんでした。これは、事業の大半が製造業か小売業であり、流通経路も単純であったため、ビジネスに精通した人であれば、あえて詳細に説明するまでもなかったからです。しかし、近年は、インターネットの普及により、販売チャネルが複雑化していますし、Webサイトへのアクセス数を増やし、広告収入を主要な収入源としているビジネスモデルも多く登場してきました。そのため、事業計画書の読み手にとっては、「ユーザーを集める仕組みはわかったけど、結局、お金はどこで稼いでいるのか?」という疑問を抱くケースが増えています。
このような事業計画書の読み手の疑問に対して、簡潔な答えを用意しておくことが親切な対応といえるでしょう。製造業や小売業のビジネスモデルはシンプルなことが多いため、簡単な文章での記述で足りるかもしれませんが、流し読みするような読み手にとって、簡単な図があると、理解の大きな助けとなります。また、サービス業のビジネスモデルは複雑なケースが多いため、取引上の関係者をできる限り登場させ、モノ・お金の流れを明確に記した図を掲載することが重要になります。

競合製品との比較

「製品・サービス」の概要を前のセクションで説明しましたので、次に、自社の製品・サービスを競合と比較することによって、「自社のサービスのどこがユニークであるか」という点について説明します。
競合との差別化ポイントを説明するには、様々な方法が考えられますが、以下のような表を使い、主要な競合2,3社ピックアップし、価格、商品構成などの主要な要素を比較します。より詳細な競合の強み・弱みの分析は別途市場分析のセクションで行いますので、ここでは、競合の製品・サービスの比較について概論を展開します。

(表を挿入)

このセクションでは、市場におけるあなたのビジネスのポジョショニングを定義することになります。「顧客は、なぜ、競合ではなくあなたから買うのか?」、「あなたは、何を、いくらで、誰に対して、どのような製品・サービス構成でビジネスをしようとしているのか?」。具体的なメリット、特徴、顧客グループを挙げてみて、どこで、競合と差別化できるかじっくりと考えることが重要です。「あたなの製品は、機能面、価格面、品質面、サービスの質、そのほかどこで競合より上回っていますか?」という質問に答える必要があるのです。

例えば、もし、アウトドアグッズ店の場合なら、他の店舗よりスキー製品に強みがあるとか、スキー場に隣接していてレンタルに特化しているなどといった差別化要因が挙げられます。また、別の例として、ジュエリーショップであれば、価格帯は普通だが、リペア、鑑定・鑑別で有名といった点も競争優位を生み出すポイントとなります。プラモデルショップであれば、鉄道・軍事もので品ぞろえ日本ナンバーワンというのも競合と違いをはっきりさせることができます。

製品イメージ

製品・サービスの概要を説明するために、写真や図を使って説明することが最も効果的です。商品の写真を事業計画書に挿入すれば、「1枚の絵は100を語る」といわれるように、初めて事業計画書を読む投資家に対して製品の概要を理解してもらうことができます。また、近年は、ウェブサイトを主要チェネルとしたサービスも多いため、ウェブサイトのトップページのスクリーンショットの画像を挿入することも効果的な方法と考えられています。
また、販促パンフレットの一部を事業計画書に添付資料・補足資料としてつけると効果的です。例として、広告のコピーであったり、パンフレット、ダイレクトメール、製品カタログ、製品仕様書などが挙げられます。事業計画書を社外の人に提示する場合、販促パンフレットは、会社・製品のイメージを効果的に伝える実務的に使えるツールとなります。
投資家に訴えたいポイントと販促パンフレットの内容に整合性がない場合は気を付けなければなりません。もし、今後、機能を大幅に変更したり、価格水準を見直す可能性があるのなら、誤解を生む可能性があるため、販促パンフレットの使用は差し控えたほうがよいかもしれません。

調達と配送体制

製品・サービスの概要を説明するにあたって、それを支えるサプライチェーンについても併せて説明する必要があります。これは、読み手が、製品・サービスを提供することが本当にできるかという”実現性”を重要な審査項目として位置づけているからです。また、製品・サービスの原価構造を理解するためには、調達と配送プロセスの詳細な説明は欠かせません。
特に、製造業においては、調達・配送機能が成功の鍵になります。製造業の場合は、以下の点に留意して、記載するとよいでしょう。

  • 製品の調達・製造・提供に要するコストを説明する必要があります。製造業者や組み立て業者であれば、部品の標準原価と間接費の全体像を明確にしなければなりません。
  • 製造業者にとっては、資材の調達がビジネスの肝といっても過言ではありません。サプライヤーが構成部品のコストを左右し、継続的に業務を継続できるかは、サプライヤーに依存しているのです。部品の標準原価を分析し、あなたの会社が置かれている強み・弱みをきっちりと把握しましょう。
  • 製造業者であれば、重要な部品の調達に関わる情報を事業計画書に盛り込みたいと考えるでしょう。特に、事業計画書を銀行や投資家に開示する場合はなおさらその傾向が強くなります。このような場合は、事業計画書本文に情報を盛り込むのではなく、補足資料として、重要なサプライヤー、部品の標準原価、構成部品の明細などの情報を添付するとよいでしょう。
  • 部品の供給が会社の命運を握っているような製造業では、代替となるサプライヤーと関係を維持できている点を強調することも有用です。

調達・配送体制が重要となるは、必ずしも、製品を製造している会社に限りません。例えば、以下のようなサービス業であっても、サービスを支えるリソースについて情報を提供することが必要になります。

  • 弁護士、税理士、経営コンサルタントなどのサービスは、事務所のスタッフによって提供されます。このような士業の原価構造は、主としてスタッフの人件費となります。
  • 旅行代理店であれば、知識専門性、施設との提携関係、システムを総合的に活用し、サービスを提供しています。
  • インターネットのプロバイダーであれば、ネットワークのインフラに投資し、それを維持することでサービスを提供することができています。
  • レストランであれば、キッチンとホールのスタッフの給料に給料を支払い、材料を調達・管理し、安定したサービスを提供しています。

このように、サービス業の場合は、コスト構造が全くことなってきます。サービス提供を支えるリソースについて、コスト構造とそれをどのように調達・維持し、顧客に提供するかという点について、説明することになるのです。

技術の特徴

今日、技術革新のスピードはめまぐるしく、毎日のように最新の技術が紙面やオンラインニュースを賑わせています。このセクションでは、技術が事業、製品、販路、顧客のニーズにどのような影響を与えるかについて説明します。
技術革新には、例えば、スキャンの技術であったり、小売店舗のPOSシステムであったり、インターネット、スマートフォン、指紋認証といったビジネスの根底を覆すようなものがあります。I-phoneの普及により爆発的に普及したスマートフォンですが、数年前までは、存在すらしておらず、多くの人々がこれほどまでi-phoneに依存する時代の到来は想像できなかったでしょう。インターネットに関していえば、15年前は、自社Websiteを保有している会社は限られていましたが、現在は、マーケティング上欠かせないツールとなりました。
技術はサービスを提供する会社にとっては欠かせないものとなっています。例えば、インターネットプロバイダーは、ワイヤレス接続が差別化要因かもしれませんし、会計事務所であれば、全国のネットワークや独自開発した会計ソフトが競争優位の源泉かもしれません。医療研究所であれば、医療診断の高度技術で差別化を図っているかもしれません。また、旅行会社であれば、航空会社の予約システムとの連携が肝かもしれません。
技術は製造業においても以下の2つの点から重要と言えます。

  • 第一に、技術は製造ラインや組み立てラインのかなめになっているということ。特にコンピューターチップメーカーなどの精密機器ではそれが顕著です。
  • 第二の理由として、製品に組み込まれた特殊技術が製品の価値を大幅に高めるケースです。I-phone 5sに導入された指紋認証機能がまさにそれです。

どちらのケースであっても、技術が競争優位の源泉になります。外部向けに計画書を作成する場合は、鍵となる技術を分かりやすく簡潔に説明し、技術が特許・契約などにより適切に保全されているかについても説明する必要があります。
時としては、技術を計画書内で強調しすぎると負の作用をもたらすことがあります。なぜなら、裏を返すと1つの技術レベルがあまりに高度な場合、新技術の発明によりそのビジネスは一瞬にして脅威にさらされるからです。例を挙げてみましょう。旅行代理店は、航空会社、鉄道会社、ホテル業界との予約システムとネットワークでつながることで優位性を築き上げてきました。しかし、消費者が直接アクセスできるオンラインWebサービスの登場によりその優位性は一気に失われたいったということは記憶に新しい事例です。
しかしながら、全ての事業が技術に依存しているわけではありません。あなたの事業の優位性には、特殊な技術は関連ないかもしれません。そのような場合は、この技術のセクションは、省略しても問題ありません。

将来の製品・サービスの見通し

将来の製品・サービスの見通しについて記述したいと思うかもしれません。その際、いくつかの問いを自問してみてください。

  • 「長期の製品戦略はあるのか?」
  • 「製品はどのように開発するのか?」
  •  「市場セグメント、市場の需要、顧客ニーズと開発する製品の間に明確な関連性はみてとれるのか?」

繰り返しになりますが、「製品・サービスの見通し」セクションで含めるべき項目は、計画書をどのような目的で利用するかによります。会社の成長を期待する投資家などには、今後の製品・サービスラインは欠かせないポイントです。一方、銀行などの金融機関は、非常に保守的であるため、将来の製品開発に対する融資は期待できません。したがって、融資を申請する場合は、将来の製品・サービスについては、それほど強調しなくてよいでしょう。
製品・サービスの将来を語る際に、守秘義務の問題は避けて通れことはできません。事業計画書に重要な秘密事項が含まれる場合は、内容についてよく吟味し、誰に事業計画書を配布したかについて管理する必要があります。事業計画書を配布した者から、秘密保持契約を入手し、適切にファイリングしておくとよいでしょう。

いずれにせよ、事業計画の使用目的によって、質の高い投資判断に資する製品・サービス情報を伝える必要があります。事業計画書の読み手の視点にたって、彼らが何を事業計画書をみて評価しようとしているかもう一度考えてみてください。読み手が、あなたの製品・サービスを理解し、それによって顧客のニーズを満たすであろうと納得してくれること。さらには、競合ではなくあなたの製品・サービスを顧客が選ぶこと読み手に納得させられた申し分ありません。理想的には、このセクションを使って、後に続く売上予測数字に説得性を持たせることができると効果的です。