「社長失格」で有名な板倉社長が立ち上げたハイパーベンチャーという会社も、画期的なビジネスモデルで一躍時代の寵児となりました。しかし、多額の資金調達後、数年足らずで、多額の負債を抱えたまま倒産。倒産の原因を突き詰めてみますと、ビジネスアイディア自体は画期的でしたが、期が熟す前に多額投資を行い、銀行に融資を引き上げられ倒産するという事業環境に対する分析が甘かった点が挙げられます。このように、産業内で起こる競争環境の変化は、あなたの事業に多大な影響を及ぼしていることを忘れてなりません。業界の知識が豊富になれば、それだけ、優位に立てますし、競合からの脅威に対する対処策も考えることができるようになります。フルセットの事業計画書においては、業界の経済構造、参加者、物流パターン、競争要因など、業界を特徴づける要因について記載することが必要になります。
インターネットのおかげで、業界に関する様々な情報を簡単に低コストで取得することができるようになりました。現在では、情報を探す手間はほとんどかかりませんし、特殊な情報ルートも必要ありません。むしろ、情報が溢れすぎて、どの情報を利用し、どのように加工すべきか、さらにその情報は本当に信頼に足るものかを検証しなければ成らないという点が問題となってきています。したがって、以前に増して、情報を探す力ではなく、情報を分析・整理する力が問われるようになっているのです。

PEST分析

ビジネスは、顧客と自社だけを見ていれば成功するものではありません。ビジネスは、競合や社会の動向によっても大きな影響を受けるからです。この産業全体の動向を分析するのに適したフレームワークが「PEST分析」と呼ばれるものです。PESTは、以下の4つの頭文字をつなげたものです。

・Politics(政治)
・Economy(経済)
・Society(社会)
・Technology(技術)

このPEST分析においては、自社に大きな影響を与えるであろう各要素の変化を多面的に分析します。PEST分析にあたっての留意事項は、長期の視点にたって記載することです。3-5年のスパンで起こりうることを列挙することで、投資家に対して、長期的なリスクやオポチュニティに関する知見を与えることができます。

ファイブフォース分析

経営戦略を勉強すると、まず最初に登場するのが、ポーター先生のファーブフォース分析です。ファーブフォース分析は、「競争環境」を分析するツールであり、戦略立案とは直接的な関わりはありません。これは、戦略立案の土台となる競争状況を一望するためのフォーマットと理解するとよいでしょう。
産業構造の変化は、数ヶ月単位で起こるといっても過言ではありません。そのため、ある一時点のファイブフォース分析のみでは、分析として片手落ちになります。現状の分析に加え、3年後、5年後競争環境は激しくなるのか、現状維持なのか、競合が淘汰され競争が弱まるのか、そのような示唆に富んだ分析が理想的です。
ファイブフォース分析に当たっては、以下のフォーマットを利用すると体系的なまとめてができます。

主要な競合プレイヤー

ファーブフォース分析では、5つの視点から競争環境を分析していましたが、本セクションでは、その中の「同業他社」の項目を掘り下げます。ここでは、製品・サービスの機能の競合比較ではなく、競合する”会社”に注目して分析します。競合会社の売上高や従業員数も含め、競合が将来成長し、自社にとっての脅威になりうるかという点を注目して分析するといでしょう。競合と比較すると際は、できる限り、定量情報を含めることが望まれます。例えば、Facebookページの「いいね」の数も、各社のオンライン上の注目度を比較する上では有用な指標となります。

業界における成功要因の分析

このセクションでは、業界分析のまとめとして、業界における成功要因を記載します。ビジネスの成功のためには、「顧客の声を聞け」といわれますが、顧客のニーズに応えることが全てではありません。むしろ、顧客ばかり見ていると、産業におけるエコシステムにうまくかみ合わず、競争優位の確立が難しくなるケースがあります。
会計ソフトを例にして考えて見ましょう。例えば、顧客が最も使いやすい会計ソフトを開発したとしましょう。今はやりのクラウド会計ソフトをイメージしてもらうとよいでしょう。
会計ソフト業界は非常にユニークでして、ほとんどの会社は、税理士にサポートを受けながら、経理処理を行っています。いくら、ハイテクな会計ソフトができたとしても、税理士のサポートが必要な局面はでてくるでしょう。しかし、クラウド会計は、「自分で簡単に経理ができてしまいますよ」と税理士不要説を謳っていることもあり、税理士からよく思われていません。むしろ、税理士の仕事をうばってしまうものですので、税理士からは敵視されることも少なくありません。会計ソフトの選定にあたっては、税理士にまずは相談するというのが一般的な経営者の対応です。現在、普及しているクラウド会計は、税理士をすっ飛ばして、いきなり、経営者にアプローチしているのです。これでは、税理士からの協力は得られませんし、むしろ、税理士は、アンチクラウド会計というポジションで、クラウド会計を剥がしにいくことは間違いありません。
ではどうすればよいかですが、クラウド会計が成功するためには、税理士にもメリットがあるようなソフトにしなければいけないことは明白です。税理士としてもコストを削減でき、顧客獲得につながるような会計ソフトがあれば、喜んで乗り換えることでしょう。既存の会計ソフト会社は、どこも、税理士とのタイアップに力を入れていることも、この業界の特徴といっても過言でもありません。
上記の例が示すように、ある業界で成功するためには、1)業界で競争優位を確立ための要因2)消費者が重要視するポイントをそれぞれ把握しておく必要があります。この理解が不十分なまま、戦略を実行したとしてもピントがずれたものになります。戦略を策定する土台として、業界における成功要因を十分に分析する必要があるのです。