売上高は、トップラインともいい、事業計画書の作成にあたっては最も精査に時間をかける項目です。売上高は、マクロ環境、市場動向、競争環境等の外部環境要因の影響を大きく受ける一方で、会社の新規出店計画、マーケティング戦略、新商品の開発計画等の内部環境要因の影響も受ける項目です。したがって、これらの要因を総合的に勘案した上でモデリングを行わなければなりません。
売上高の予測方法は複数ありますが、通常、以下のステップにしたがって行われます。

  1. 予測期間を定める
  2. 売上予測のアプローチを決める
  3. 収益構造のブレイクダウンを作成し、売上予測の算式を決める
  4. 仮定条件の数値を集める
  5. エクセルで試算してみる
  6. 肌感覚チェック

1.予測期間を定める

売上計画は、事業計画書において非常に重要な位置づけとなる財務数値ですが、予測する期間はその用途によって異なります。

  • ベンチャー企業:”1年目の月次”と”3年間の年次計画”を通常作成します。直近の売上の伸び方や資金繰りが重要ですので、1年目の月次推移は必須とされています。
  • 中小企業:3年間の年次計画が一般的とされています。銀行融資目的に作成するケースが多いため、借入金の返済可能性を証明できる期間に合わせる必要があります。
  • 大企業(短期):短期的な予算管理を重視するため、1-2年の予測だけを行うケースがあります。
  • 大企業(長期):長期戦略を作成する場合は3-5年の財務予測が行われることがあります。

2.売上予測のアプローチを決める

売上高の予測には2通りのアプローチがあります。

  • トップダウン:市場規模、自社マーケットシェア、価格を予測して売上高を推定する方法
  • ボトムアップ:自社の既存顧客の需要、顧客の解約率、新規顧客のポテンシャルなどから売上高を予測する方法

可能であれば、両方のアプローチを用いて、売上高のレンジを予想することが望ましいと考えられますが、トップダウンのアプローチは仮定の要素が大きいことから、市場規模や市場シェアのデータの信頼性が高い場合を除き、参考程度の情報として利用することが多いです。えてして、売上予測は、夢物語になる傾向があるため、潜在的な顧客数をもとに売上高を予測するのではなく、確実な顧客をベースに積み上げて予測するボトムアップが望ましいといえます。

売上高の予想方法は複数ありますが、よく用いられる方法は、以下の5つがあります。

トップダウン型の例

①市場規模(売上高)×成長率x市場シェア(例:売上高100億円x1.1xシェア10%=11億円)
②販売単価x市場規模(数量)×成長率x市場シェア(例:平均単価100円x数量500,000×1.1×10%=5.5百万円)

ボトムアップ型の例

③拠点別・製品別・顧客別の積み上げ(例:A社2億+B社5億+C社3億=10億円)
④過去の実績に成長率を乗じる方法(例:2013年2億円X1.3=2.6億円)
⑤単価×数量(例:客単価500円x延べ5,000人=2,500,000円)
・プロジェクト単価xプロジェクト件数
・一人当たり単価x顧客数
・商品単価x商品数量

具体的な算式の例

BtoBの例

  • プロジェクト単価xプロジェクト件数
  • 顧客ごとの売上高の積み上げ
  • 年間営業件数x誓約率

BtoCの例(客数の見積もり方法)

  • Webサイトへのアクセス数xコンバージョンレート
  • 1日当たり来店客数x実際に購入する割合x営業日数
  • 席数x稼働率x1日あたりの回転数x営業日数
  • 会員数×実際に購入する割合

3.収益構造のブレイクダウン

売上予測のアプローチが決まったら、事業の収益構造を分析します。これは、モデリングをする際に、鍵となる要素(KPI:Key Performance Indicator)を抽出し、シンプルな算式を導くために行います。複数事業を行っている場合は、事業の規模に応じて、別途モデリングが必要であるか検討します。重要ではない事業については、その他として、成長率を使い、簡便的に売上を予測することが一般的です。

あるインターネットビジネスを例として、収益構造のブレイクダウンを作成すると以下の通りになります。

売上高―

  • 広告事業=広告クリック単価xサイトPV x広告クリック率
  • SEOコンサル事業=プロジェクト単価xプロジェクト件数

4.仮定条件の数値を集める

モデリングのための算式を構築したあと、実際に、式に数値を入れることになりますが、信頼に足る仮定数値である必要があります。数値の信頼性を高めるためには、実績や実地調査の結果を利用することがよいとされています。以下、仮定条件の数値を入手するときに、参考にできる情報ソースです。

  • 直近の実績、過去数年間の平均値
  • アンケート調査、実地調査(例えば、店舗の前を通る人の数など)
  • 競合他社の数値(ベンチマーク)
  • 業界平均値
  • 統計データを使い推計

5.エクセルで試算してみる

月次売上予測を作成する

具体的に、KPIをシンプルな算式に代入して、エクセルを利用し計算してみましょう。KPIのなかでも、変動する要素、固定の要素にわけて記載します。例えば、広告事業では、ウェブサイトのPV(ページ・ビュー)が変動する要素となりますが、これは、1)成長率を使って、月次の数値を予測する方法と2)毎月の数字を1つずつ予測する方法を使って、予測することが可能です。

広告事業の売上予測(成長率を使って予測する方法)
<仮定>
広告クリック単価:50円
広告クリック率: 1%
サイトPV: 初月1,000、毎月50%増加

広告事業の売上予測(毎月予測する方法)
<仮定>
広告クリック単価:50円
広告クリック率: 1%
サイトPV: 初月1,000、最初の半年は、毎月1,000pv増加、半年後から毎月2,000pv増加

広告事業の売上予測(年次の売上を予測する方法)

1年目の売上高は、月次売上高の12か月分の合計として算出できますので、その数値を使います。2年目、3年目の売上高は、通常、1年目の売上高をもとに成長率を乗じて算出します。前述の広告事業の場合ですと、以下のようになります。
<仮定>
広告クリック単価:50円
広告クリック率: 1%
1年目pv合計:257,493
年間Pv成長率:50%

6. 肌感覚チェック

上記の5つのステップで、売上高は算出できました。しかし、複数の要素を掛け算で導いた予測数値ですので、実際の感覚とあっているかどうか、第六感でチェックする必要があります。英語では、Guts feeling checkといいますが、腑に落ちるかということです。財務予測の作業は、科学というより、アートの要素が強い作業なのです。
感覚チェックを行う際のポイントは、競合との比較や業界平均となるベンチマークと照らし合わせるとよいでしょう。あまりに、乖離している場合は、楽観的な予測がどこかに含まれているかもしれません。適宜調整して、現実的な数値になっているか確認するとよいでしょう。例えば、前述の広告クリックレートは、一般に、0.5%-2%といわれています。2%という上限値をとることは可能ですが、2%を実現できているサイトは、全体の数%にも満たないといわれています。そのような中、当社はトップ水準を目指すと勢いづいてみても、現実は、厳しいということもあるため、実績がないうちは、保守的な数字にて予測を立てることが懸命です。それが、事業計画書の読み手からの信頼にもつながります。